ナチスドイツの時代の巨大飛行船ヒンデンブルク号の爆発事故。今からちょうど84年前に発生した事故です。
この飛行船爆発事故の謎の解明について、NHKの『幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー「空のタイタニック・ヒンデンブルク爆発の謎 〜飛行船黄金時代の光と闇〜」』が今晩放映されます!
放送をワクワク期待しているのですが、放送を見る前に、事故についてのおさらいをしておいた方が番組を楽しめると考えました。
ヒンデンブルク号爆発とは何?
この事故について、Wikipediaには次のように書かれています。
この事故で、乗員・乗客35人と地上の作業員1名、合わせて36名が死亡し多くの乗客が重傷を負った。映画、写真、ラジオなどの各メディアで広く報道されたことで、大型硬式飛行船の安全性に疑問が持たれ、飛行船時代に幕が降ろされるきっかけとなった。
1912年4月14日に起きたイギリスの豪華客船タイタニック号沈没事故、1986年1月28日に起きたアメリカのスペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故などとともに20世紀の世界を揺るがせた大事故のひとつとして知られている。
出典:Wikipedia
Hindenburg Disaster: Real Zeppelin Explosion Footage (1937) | British Pathé
映画
1975年製作/アメリカ、映画「ヒンデンブルグ」
この事故の犠牲者数は、以下の通りです。タイタニック号沈没事故と比較すべくもありません。この程度の犠牲者を出した事故など航空分野ではざらにあります。なぜ、ヒンデンブルグ号の事故がタイタニック号沈没事故と比較されるのか。
人数 | 死者 | 生存者 | |
乗客数 | 36 | 13 | 23 |
乗員数 | 61 | 22 | 39 |
地上作業員 | – | 1 | – |
合計 | 97 | 36 | 62 |
Hindenburg Explodes (May 6, 1937)
ヒンデンブルク号とは
ヒンデンブルク号は、当時世界最大のドイツの巨大飛行船でした。
1936年3月に運航を開始し、翌年、最初の北アメリカ行き大西洋横断飛行で爆発火災により破壊されるまで、14か月間運航しました。
日本に来た『ツェッペリン伯号』
飛行船『ツェッペリン伯号』により世界一周が達成されたのは、1929年のこと。全飛行距離は約3万1千km、全所要時間は21日7時間半、また、実際の滞空時間は320時間でした。
1929年8月8日、『ツェッペリン伯号』は世界一周の旅に出発します。この出発地が米国ニュージャージー州レイクハーストでした。そうなのです。ヒンデンブルク号が爆発した場所です。
なぜ、ここが世界一周の出発地に選ばれたのか。それは、飛行船建造の出資者のひとりであるアメリカ出版界の大御所で新聞王とも呼ばれたウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolph Hearst)が強硬に主張したからのようです。なぜそのような主張をしたのか不明です。調べても理由が見つからない。たぶん、儲けるためにどうしてもこの飛行場を使う必要があったのでしょう。ウィリアム・ランドルフ・ハーストは、ニューヨークの自由の女神の前を通過することを条件に、この世界一周旅行の資金として10万ドルを支払ったそうです。さらに、ツェッペリン号の21日間世界一周旅行の独占的な報道権のために 200,000 ドルを支払いました。.3)
ハーストは、映画『市民ケーン』のモデルとしても有名な人物です。捏造記事やでっち上げ記事で民意をコントロールするという現代のメディアに通じる悪行を重ねた人物のようです。
世界恐慌は、『ツェッペリン伯号』が世界一周旅行に出発してから一ヶ月後の1929年9月4日頃から始まったアメリカの株価の大暴落に端を発し、1929年10月24日の株式市場の暴落(通称ブラックチューズデー)で世界的ニュースになりました。
この影響で、ハーストも大打撃を受けたようです。
ウィリアム・ランドルフ・ハーストってあの美しいお城の城主じゃないの?
ちょっと脇道に逸れて、ウィリアム・ランドルフ・ハーストについて少し触れたいと思います。
彼の名を目にした時、どこかで聞いた名前だと思ったのですが、思い出せない。彼の経歴を少し調べていくと、『ハーストキャッスル(Hearst Castle)』という名前が目にとまりました。これも聞いたことがあります。このお城の場所は、カリフォルニア州サンシメオン。地図を見て、やっと思い出しました。
以前このお城のことを紹介する記事を書きました。
関心のある方は、過去記事『目を見張るほど美しい屋内プールがまるでアルハンブラ宮殿のようだ! 2017/3/20』をご覧下さい。
巨大飛行船はどれほど大きかったのか
ヒンデンブルク号は巨大飛行船と言われています。では、実際どれほどの大きさだったのでしょうか。
ツェッペリン伯号とヒンデンブルク号の仕様は以下のようになっていました。
ヒンデンブルク号の長さは、245メートル。ジャンボジェット・ボーイング747-8型の全長は76.3メートルなので、ヒンデンブルク号はジャンボの3倍以上の長さがあったことになります。また、ジャンボの機内幅は6.1メートルであるのに対し、ヒンデンブルク号は最大で41メートルもありました。いかに巨大な飛行船だったのかが分かると思います。
そして驚くべきはヒンデンブルク号の重量です。何と119トンしかありません。これに対しジャンボジェットの自重は183トン。全体の8割がアルミニウム合金、カーボンなどを使用して軽量化を図っていますが、ヒンデンブルクの軽さは群を抜いています。
ヒンデンブルク号の構造
ヒンデンプルク号は、どうやって巨大な本体を空中に浮かせているのでしょうか。
ヒンデンプルク号は、『硬式飛行船』でした。「硬式」って何?
それを知るには、飛行船の種類を知る必要があります。
- 硬式飛行船(RIGID AIRSHIP):その外形を、剛な構造枠により維持する飛行船。
- 軟式(NONRIGID):その外形を、通常 空気で膨張されたバロネットの内部圧力で維持する飛行船。
- 半硬式(SEMIRIGID):基本的に軟式飛行船であるが、長さ方向に ある程度荷重を支持するキールを有するもの。
管理人が分からなかったのが水素ガスを閉じ込めた施設の構造です。どうやら、ゼラチンを二枚の木綿ではさんだ布で作られた袋に水素ガスを充填し、それを浮力としたようです。
そして、お客さんはどこにいるの? という謎。 飛行船下部のゴンドラのような部分は操縦席になっていて、乗客は飛行船内部にいました。喫煙室もあったそうです。「おいおい! 水素ガスで浮いている飛行船でタバコなんか吸うんじゃねーよ!」
事故の原因
映画では破壊工作により爆破されたことになっていますが、どうもその可能性は低いように思います。
では、事故はどのように起きたのでしょうか。まずはここから紐解いていくことにします。
事故が起きたのは、1937年5月6日、午後7時25分頃です。
さて、事故現場におけるこの日の日没は何時だったのでしょうか。答えは、午後6時56分11秒です。つまり、事故は、日没後30分経過したあたりで発生しています。
なぜこんな事を書くのかというと、最近カラー処理した画像では、まるで夕方のような着色が施されているからです。
たとえば映画でもこんな感じです。夜の映像だと撮影が難しいので、勝手に昼間に起きた事故とねつ造(脚色)したようです。
現地の日の入りは計算サイトで計算できます。
座標はヒンデンブルク事故記念碑の場所をピンポイントで示しています。
次に、「どこに墜落したのでしょうか」。実は、これが大きな謎です。
下の画像をご覧下さい。
画像の上は平常時の飛行船の格納庫と係留施設の位置関係を示しています。下は墜落現場と格納庫の位置関係です。これを見て違和感を感じませんか。
動画を観る限り、係留施設に近づき、そこを通り過ぎようとした瞬間、船体後尾上部で発火し、最初に後尾が火に包まれ、高度が低下。機体が上を向いた状態になり、炎が船首から吹き出て、そのまま落下。船体全体が火に包まれます。
上の画像で何が不思議なのか分かったと思います。下の画像の残骸の船頭(機首)は係留施設の方向を向いています。しかし、それはあり得ない。動画では、係留施設を通過しています。従って、船頭が係留施設の方向を向いて墜落することなどあるはずもありません。
この墜落現場には、現在、慰霊碑が設置されています。その慰霊碑は、墜落した機体の残骸の形を地面に鎖を使って描くデザインになっています。
事故当日の正午までにヒンデンブルク号はボストンに到着し、午後3時までにはニューヨーク市のマンハッタンの高層ビルの上空を飛行していました。
飛行船はニューヨークから南下し、午後4時15分頃にニュージャージー州レイクハーストの海軍航空基地に到着しましたが、雷雨を伴う悪天候であったことから、ヒンデンブルクの司令官であるマックス・プルス船長と、レイクハーストの指揮官であるチャールズに影響を与えたローゼンダールは、状況が改善するまで着陸を遅らせるよう船にメッセージを送信しました。プロス船長はレイクハースト地域を離れ、嵐が収まるのを待つためにニュージャージーの海岸を越えました。午後6 時までに天候状態は改善されました。6:12、ローゼンダールはプロス船長に気温、気圧、視界、風を伝えるメッセージを送り、ローゼンダールは「着陸に適している」と考えました。
6:22 ローゼンダールはプロス船長に「今すぐ着陸を推奨」と無線で送信し、7:08 にローゼンダールは「可能な限り早期の着陸」を強く推奨するメッセージを船に送信しました。
7:25 p.m. 機体後方の上部で火の手が上がります。
7:25:15 p.m. 機体後部が炎で覆われます。
7:25:30 p.m. 機体全体が炎に包まれ、地上に落下します。
事故の状況を見ると、飛行船後部で最初の出火が起きました。とても爆弾工作には見えません。そもそも、爆発は起きなかったという証言があります。爆発事故と称されるヒンデンブルク号の事故では、爆発的なものはなかった。起きたのは、水素ガスに引火して “静かに” 燃え広がる炎!
動画を観ると、確かに爆発は起きていません。まるでスローモーションのように炎が飛行船を包み込んでいきます。水素ガスに引火して炎が立ち上っていますが、爆発ではありません。
最初に出火したのは飛行船の最後尾付近。そもそもこの部位には水素セルはありません。この位置にあるのは水素ガス排出弁。
やはり、ここから排出された水素ガスに何らかの火花が引火したように感じます。
「何らかの火花」とは、いったい何なのでしょうか。映像を見る限り、飛行船の係留施設に近づいた瞬間に発火したように見えます。ということは、係留施設のワイヤーが水素セルを引き裂いた? などとお馬鹿な説を唱える人がいますが、水素セルはそこには存在しません。
雷の影響という説も頂けません。そもそも天候が悪かったために、着陸を待っていたのですから、着陸のゴーサインが出たと言うことは、雷雨は去ったとみるべきでしょう。ラジオの放送を聞くと、雨がやんでいたがまた少し降り出した、という放送の直後に事故が発生しています。
映像を見る限り、係留施設との間で何らかのトラブルが発生したと考えるのが妥当だと思います。
ヒンデンブルク号到着の模様はラジオ番組で実況放送されていました(ただし、ライブ放送ではなく、録音したものが放送されました)。そして、事故発生の瞬間を実況で伝えることになります。下の動画の9:00 に異変が始まります。爆発音などはまったく聞こえません。
この事故は、映像が残っているため、原因究明が容易なように感じる人が多かったのでしょう。しかし、一般に出回っている映像では、肝心の部分が映し出されていません。意図的にカットされていることは明らかです。
それは、発火の瞬間の映像です。数社のテレビ局が撮影していたのですから、その瞬間を記録した映像が存在するはずです。ところが、それは誰も見た人がいない。
それは、アメリカ合衆国にとって都合の悪い映像だったと考えられます。たぶん、飛行船をつなぎ止めるための係留施設の作業ミスが映っていたのでしょう。
ツェッペリン飛行船会社では、水素ガスを起源とする事故を一度も起こしていません。管理人は、ちょっと化学の知識のある人間の憶測を信じる気にはなりません。結局は、その人はど素人だということです。
ツェッペリン飛行船会社が飛行船の水素ガスを放出する際のリスク回避をどのように採っていたのか、という最も基本的なことも調べもせず、薄っぺらな知識で推論するのには閉口します。
理科の実験で、水素と酸素を発生させて”ボン!”と爆発させた経験があると思います。しかし、水素と”空気”ではそんな反応は起きません。だから、わざわざ酸素を発生させる必要があります。空気中には酸素が含有しているから、水素と反応して爆発する、と考えた人は、たぶん、理科の実験をしていない人です。
水素がそれほど危険なら、現在実用化が進められている水素自動車はとてつもなく危険な乗り物になります。
当時の人たちが、なぜ、爆弾による破壊工作説を採ったのか。ツェッペリン飛行船会社の飛行船がこれまで一度も事故を起こしていないことから至った結論だったように思います。水素を放出しただけでは、爆発は起きない!
支燃性ガスとの特定のガス濃度の範囲で着火源が存在するときに爆発します。水素の爆発濃度範囲は、空気中では4.0~75%。 つまり“空気中の水素濃度が4.0%より低い”または“75%より高い”ときには、引火して爆発することはないのです。
出典:https://www.ismz.co.jp/suiso-kihon/index.html
飛行船は、高度を下げるために、水素ガスを排出しますが、着陸の際には、船に積んであるバラストとしての水を放出する方法が採られ、これにより姿勢が水平になるように調整していたようです。ヒンデンブルク号が着陸時にバラスト水を放出する写真はたくさん撮影されています。
これだけの大事故なのになぜ生存者が死者数より多いのか
冒頭で示した表をもう一度ご覧下さい。
飛行船の乗客・乗員数は97人です。このうち、亡くなったのは36人、残り63人の人は生き延びました。
映像を見ると、全員死亡でもおかしくはない大事故です。飛行船の空中爆発・炎上という絶望的な状況下、なぜ、乗客・乗員の三分の二が生き延びることができたのでしょうか。
映像を見れば見るほど不思議に感じます。
その理由は、乗客のいるコンパートメントが、機体の前方下部だったことが大きく影響しているようです。しかし、このコンパートメントには水素ガスセルが隣接しています。
つまり、水素ガスセルでは爆発は起きなかったことは、この生存者数が物語っています。
機体は炎上しながらゆっくりと着地しています。機体は布製なので、着地の衝撃で破れたところから脱出できます。これが飛行機との大きな違いです。飛行機では、出口や緊急脱出口以外の出口はありません。
動画を観る限り、これだけ多くの乗客たちが助かったとは信じられない。ということは、動画がセンセーショナルになるように編集されているのだろうと思います。
このような細工をする張本人は、アメリカのメディアです。ナチス=悪、米国=正義、というお笑いの構図を作り上げるのが米国のメディアです。そのためには、何でもします。ウィリアム・ランドルフ・ハーストはこの事故に関係しているのでしょうか。調べた限りでは確認できません。
隠された影像とは? 飛行船が係留施設に近づき、その後発火するまでの影像です。公開する映像は、機体全体が炎に包まれ、火だるまになって地上に落下する影像のみ。
新しいフィルムが発見された!
先月、2021年5月18日、NOVA PBS がヒンデンブルク号爆発事故を撮影した新たなプライベートビデオを発見したという番組を放映しました。
この番組はYouTube、NOVAオフィシャルチャンネルで配信しています。
Newly Analyzed Footage Helps Solve Hindenburg Mystery
81,968 回視聴、2021/05/18
これを見ると、最後尾で爆発の後、わずか7秒で地面に落下しています。ただし、フィルムの再生速度が撮影速度と同じという保証はありませんが。
そして、なぜ乗員乗客が生存できたのだろうかと、改めて疑問が沸きました。
水素が危険ではないと主張したい人たちが持ち出すもっともらしいがニセの情報
ヒンデンブルグ号爆発の原因は水素ではない、ということを主張したい人たちがたくさんいるようです。
たとえば、
- 「ヒンデンブルクはロケット燃料で塗られた」
- 「ヒンデンブルクはテルミットで塗られた」
- 「ヒンデンブルクの外被は非常に燃えやすい」
- 「水素は無色で燃えるから、水素燃焼なんてありえない」
- 「ヒンデンブルクの人々は水素によって負傷しませんでした」
などなど。
ヒンデンブルク号の事故について少し調べれば、「テルミット(thermite)」という単語に出くわします。これが原因と信じている人も多いようです。特に、化学に弱い人は。
これに対して、これらの疑惑を木っ端微塵に粉砕しているサイトがあります。関心のある方は下のリンクからご覧下さい。
「Myths about the Hindenburg Crash」、Airships.net
追記:『幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー』を観て
『幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー』を観ました。その感想は、微妙・・。
決して悪いできではないのですが、どうも中途半端な感じがしました。そもそもタイタニックなど関係ありません。それを紹介する時間があるのなら、もっとテーマを深く掘り下げて欲しかったと感じました。
少し気になったのが「欲に目が眩んだ悪者が登場する」という番組構成。この構図をどこかで観たと思ったら、まさにタイタニックでも使われた構図です。
科学の分野から解き明かせなかったために、人間関係・人為的ミスという方向でまとめた番組のように感じました。NHKならもっと科学的アプローチをして欲しかった。
発注した番組制作会社に科学に強いスタッフがいなかったということなのでしょう。なんか寂しい。たとえば、上で揚げた5項目の推論について一笑に付すような番組を作って欲しかったと感じました。
出典:
1. LZ 127 (飛行船)、Wikipedia、ツェッペリン伯号
2. ヒンデンブルク号爆発事故、Wikipedia
3. ”Cruise and Air Ship History: The Graf Zeppelin – The first flight of an airship around-the-world. William Randolph Hearst financed the flight in 1929. It took 12 days and 11 hours.“, THE PAST and NOW
4. 「The Hindenburg Disaster: 9 Surprising Facts」、Airships.net ヒンデンブルク号の出火位置についての証言、搭乗者の事故時の居場所とその生死など詳しい情報がここに書かれています。よくここまで調べたものだと感心します。本サイトでは、Airships.netに書かれていることをパクって紹介する気はないので、関心のある方はAirships.netでお読み下さい。