マレーシア航空370便の謎:墜落場所が特定された?

 2022年3月9日、フジテレビの『世界の何だコレ!?ミステリーSP【仰天映像&ずっと解けなかったナゾ調査!】』 で「8年前の昨日、マレーシア機が突如失踪!ある天才が…ついに居場所を特定?」という番組が放映されていました。

 航空史上最大の謎とも呼ばれる「マレーシア航空370便失踪事件」。とても見応えのある番組に仕上がっていました。

 今日は、『世界の何だコレ!?ミステリー』を参考にしながら、番組では語られなかった詳細をより深く調べてみることにします。

マレーシア航空失踪事件とは

 まずは、この事件のあらましについて見ていきましょう。 

 「マレーシア航空370便墜落事故は、マレーシアのクアラルンプールから中華人民共和国の北京市に向かっていたマレーシア航空の定期旅客便である370便が2014年3月8日に消息を絶ち、その後、インド洋に墜落したと推定された事故である。」(Wikipedia、マレーシア航空370便墜落事故)

 事故機の機種はボーイング777-200ER。2014年3月8日午前0時41分(現地時間)、12人の乗員を含む239人を乗せてクアラルンプール国際空港を離陸し、目的地北京首都国際空港に同日午前6時30分に到着の予定でした。

 ところが、離陸から約50分後、ベトナム南部の海岸近くの海上を航行中の午前1時19分にクアラルンプールの西南西約15キロメートルにあるスルタン・アブドゥル・アジズ・シャー空港(スバン空港)の管制当局との交信の終了後、次の予定飛行空域を担う管制当局とは交信を開始せず、以後無線電話通信による管制当局との交信を絶ち、数分後、レーダーからも機影が消えました。

 マレーシア航空370便に何が起きたというのか。

消えた370便の謎

飛行ルート変更の謎

 当初は、予定の航路の途中で墜落したのではないかと推測されましたが、マレーシア空軍のレーダー記録を解析したところ、370便は最後の交信の直後1時22分頃、進路を大きく西に変更し、クアラルンプール国際空港に戻ろうとしていた、ように見えました。しかし、その後、進路を西にとり、インド洋に出て消息を絶ちます。

Source: Wikipedia、370便の飛行経路

 そして、インド洋に墜落したと考えられています。

 しかし、この説明は、結局何も説明していません。インド洋ってその範囲をご存じでしょうか。インドの周辺? 違います。インドの南から南極まですべてがインド洋です。

 インド洋に墜落! 問題は、墜落したのはインド洋のどこなのかということです。

Image: Wikipedia 一部修正

本当の飛行時間

 マレーシア政府は、衛星通信サービス会社から370便が失踪した後の通信データを入手し分析。それは “ピン” と呼ばれるもので、1時間おきに航空機からインマルサット衛星へ位置情報を自動送信するもの。ピンは6回送られていました。つまり、最後の交信から6時間以上飛行を続けていたことが確認されました。しかし、7回目のピンが送られてくることはなかった。墜落したのです。

切断された通信システム

 今の時代、旅客機が行方不明になりました、など本当に起きるのだろうか、という素朴な疑問が沸きます。レーダーは? ATCトランスポンダは? 

 航空機には位置や高度、速度などを自動で地上に送る通信機器が搭載されています。

 実は、370便のトランスポンダとエーカーズという二つの機器からの信号が飛行中になぜか途絶えてしまいます。これで、地上管制では航空機の識別ができなくなります。

 トランスポンダは操縦席でオン・オフの操作が可能ですが、エーカーズは地上で作業員が操作するものらしく、この二つの通信機器が同時にオフになった原因についてはまったく分かっていません。

 機体の故障、ハイジャック説など、様々な憶測が流れますが、決め手に欠け、どの説も信憑性に欠けていました。

 そんな中、370便の機長ザハリエ・アフマド・シャー(Zaharie Ahmad Shah)氏の自宅で捜査員がパソコン、フライトシミュレーターを発見。ハードディスクの消去されたファイルをFBIの協力を受け解析した結果、機長がシミュレーションしていた飛行ルートがまさに、今回判明した飛行ルートと類似していることが分かりました。

 その行き先は、インド洋の真ん中。着陸できる飛行場などありません。このことから、機長が乗客を道連れに自殺を図ったのではないかという憶測が生まれました。

 このストーリーを信じている人も多いようですが、これっておかしくないですか。飛行時間18000時間を超えるベテラン機長がノートパソコンでフライトシミュレーターを使って自宅で練習するのでしょうか。いったい何を練習していたのでしょうか。

 もし、自殺するのなら、そんなデータの入ったパソコンは処分していた筈です。

 だから、この情報はとても怪しいと感じます。まるで、某国の工作員の仕事のようです。復元可能な証拠をわざと残しているように思えます。

370便の墜落場所が特定できたらしい

 2021年12月、航空宇宙工学技師のRichard Godfrey氏がこの謎の一部を解き明かしました。370便の墜落場所をピンポイントで特定したのです。同氏は、スペースシャトル実験室のシステムエンジニアチームのリーダーを務めたバリバリの技術者です。陰謀論に登場するうさんくさい自称”専門家”とはまったく違います。

 彼が使ったのは「WSPRnet(ウィスパーネット)」というアマチュア無線ユーザーが利用するデータベースです。注目したのは無線機の出す微弱なテスト電波を記録したデータベースウィスパーネット。 このテスト電波は世界中のアマチュア無線機から無数に発信され空中を飛び交っています。WSPRnetでは、ビーコンを発信するだけで通話交信はできません(世界の何だコレ!?ミステリーでは通話できるようなイラストが使われていましたが誤りです)。世界の受信記録を見て電波がどこまで届いたのかを楽しむ娯楽のようです。

 その電波の中を航空機が通ることで電波が遮断され、その遮断された点をたどることで飛行経路が割り出せるのだそうです。

Image: WSPRnet, Map

 失踪当日の民間航空機や軍用機などあらゆる航空機の飛行経路を調べその通り道を消去していく。 つまり残った経路が行方不明になった370便の飛行ルートになる。

 Richard Godfrey氏が気の遠くなるような地道な作業を七年の歳月をかけて行った結果、ついに、370便の墜落場所を特定することに成功します。2014年3月7日16:42UTCから2014年3月8日00:20UTCまでのMH370の全飛行経路を2分ごとに示しました。(UTC:協定世界時)

 墜落時刻:3月8日00:20UTC ⇒ マレーシア時間(UTC+0800) 3月8日08:20

 墜落地点は、オーストラリアのパースの西1920Km地点。

 座標は、33.117°S 95.300°E。370便の残骸は、水深4319mの海底に横たわっていると考えられます。

 総飛行距離は、(管理人の計測では)6980Km。北京 – クアラルンプール間の距離は、約2740マイル(4410Km)です。北京行きの旅客機に余分な燃料を積んでいたとしても、それは最低限の量だったと思われます。燃料を多く積み込むと機体が重くなり燃費が悪くなるので。

 旅客機の平均速度は高度3万5,000フィート(約1万700m)前後で時速575マイル(925km)。この高度で約7時間半を飛べるだけの燃料を積んでいたようです。(6980÷925=7.55hr)。実際には0:41の離陸から墜落の8:20まで7時間40分飛行していたことになります。

 Richard Godfrey氏の調べた飛行経路は事故機からインマルサット衛星に送られたピンデータともよく符合しています。この位置が墜落現場なのは間違いないように思います。

 後は、深海から機体を探し出しライトレコーダー・ボイスレコーダー(CVFDR・CVR)を回収する。しかし、誰がそれをやるのか。

 事故機に乗っていた乗客乗員を国別に見ると、最も多いのが中国人の152人。次いで、マレーシア人38人、インドネシア人7人、・・・、となっています。探査費用の負担については、やはり中国が中心となり、世界に出資を呼びかける、という流れが妥当なのでしょう。

 370便失踪事故については、さまざまな陰謀説を唱えている人たちがいます。一部の遺族の方も、陰謀説に傾いているようです。しかし、いくら陰謀説を唱えても何も変わりません。真相究明の唯一の方法はブラックボックスを海底から回収することでしょう。ブラックボックスは水深6,000メートルの水圧にも耐えられる構造になっているそうです。

 どこに消えたか分からなかった370便の具体的な墜落場所が分かった、ということは遺族の方たちにとって朗報でしょう。神隠しに遭ったように突然消える、というのが遺族の方々にとって一番こたえると思います。

 墜落場所がピンポイントで判明したあとは、機体の残骸の発見とブラックボックスを見つけ出す作業が残っています。そのためには多くの資金と謎を解明しようとするパッションが必要です。このことに世界中の多くの人たちが関心を持ってくれることを祈ります。

墜落位置を中心とする正距方位図法で作成, NF95AA

オーストラリア政府の捜索範囲内に墜落したらしい

 Richard Godfrey氏は、調査結果をマレーシア、中国、オーストラリアの政府機関に報告したとしています。

 さて、その後、どうなったのでしょうか。

 オーストラリア運輸安全局は(Australian Transport Safety Bereau: ATSB)はそのホームページで、Richard Godfrey氏の報告を受け取り、現在、オーストラリアが調査した結果の再確認をしていると報告しています。そして、墜落機の再捜索を始めるかどうかはマレーシア政府次第との立場のようです。

 これは、どういうことなのでしょうか。

 実は、オーストラリア政府は、2015年にRichard Godfrey氏が墜落地点として示した場所を含む海底探査を行い、墜落機は発見できなかったとして捜査を打ち切っています。今回、ピンポイントで墜落地点が指定されたことから、過去の探査データをもう一度見直し、確認する、という作業をしているようです。

すぐに批判したがるマニアたちって、どの国でも同じ

 Richard Godfrey氏の研究方法に対して、それでは370便の航路は検知できないと異議を唱える人たちがいます。その根拠を説明するふりをしながら、相手の手法だけをさんざんこき下ろすという、よくあるタイプの人たちです。そして、批判の根拠は結局示していない(www)。

 Richard Godfrey氏は、この研究を始めるにあたり、他の旅客機を使って手法の検証をしています。この手法で旅客機航路の確認ができるということを証明しているのです。

 さらに、Richard Godfrey氏は、研究の全データを公開しています。誰でも追検証が可能です。これに対し批判している人たちは、一切のデータを公開することなく、得体の知れない結果の図だけで自説を説明しようとしています。彼らの文章は独特な書き方になっています。どう独特かは読めばすぐ分かります。文章全体の中で批判している部分を取り除くと、結局何も残らない。自説の根拠は、リンク先で自分で確認しろ、というスタンスです。リンク先を開いても批判の根拠になるようなことは何も書かれていません。結局、批判することだけが目的の困った人たちです。

 もう一つ特徴があります。それは、批判対象のサイトを自分では読んでいないこと。読みもせずに批判するのですからお話にならない人たちです。

 日本人でもたまにいますが、アメリカには特にこのような自称専門家が多いようです。

Richard Godfrey氏の手法について説明します

 Richard Godfrey氏が使った手法については彼のサイトに書かれているのですが、その主体は二本の論文にまとめられています。

 2021年12月31日付けの “MH370 GDTAAA WSPRnet Analysis Flight Path Report”

 2022年3月15日付けの “MH370 GDTAAA WSPRnet Analysis Technical Report” です。

 最初の論文では、研究の概要および分析結果の詳細が述べられ、2番目の論文では解析の技術面が述べられています。

 その中身をザックリとご紹介します。

 MH370便の飛行航路分析は、WSPRnetで公開されている「Weak Signal Propagation Reporter (WSPR)」データに基づいて、あらゆる航空機のグローバル検出および追跡(Global Detection and Tracking of Any Aircraft Anywhere:GDTAAA)ソフトウェアを使用しました。

 WSPRnetデータベースは、2014年3月7日16:42UTCから2014年3月8日00:22UTCまでのMH370の飛行中に91,895の信号を記録してます。これらの中から、関連する可能性のある58,696個の信号を選択しました。使用したデータ条件は次の通り。

1.送信機と受信機の間の距離≥1,000km。記録された距離は1,000kmから19,437kmの間です。

2.送信機電力≥10dBm。

3 MHz〜30MHzの送信機周波数帯域。

 WSPRnetデータは、飛行中に2分ごとに数百の無線信号を提供します。これらの無線信号は、電離層での屈折の助けを借りて、送信機と受信機の間で世界中に伝播します。航空機の進路は電波の伝播経路を乱す可能性があります。単一のWSPRnet信号障害が進行状況インジケーターの候補であり、複数のWSPRnet信号障害が位置インジケーターの候補であり、2つ以上の伝搬パスが特定の場所で交差します。

 GDTAAAは、航空機の実際の対地速度と軌道を用いて、2分ごとに航空機の位置を予測するために使用されます。航空機の予測位置がWSPRnetの進行状況または位置指標と一致した場合、無線信号の特性を分析し、航空機が検出されたかどうかを確認します。ターゲットとなる航空機の周辺に複数の航空機が存在する場合、消去のプロセスが必要となります。南インド洋の比較的空いている空域では、この消去プロセスは必要ありません。

(上掲した最初の論文より引用)

あとがき

 冒頭に紹介した「世界の何だこれミステリー」。今回の番組は秀逸でした。何しろ、Richard Godfrey氏の手法がとても難しいため、ネット上にこの詳細な解析方法をわかりやすく説明しているサイトは皆無の状況です。ニース番組などはほぼ何も説明していません。英語サイトでも同様です。これをとてもわかりやすく説明してくれたフジテレビの番組に感謝! 管理人はアマチュア無線技士の資格を持っているのですが、2)を読んでもサッパリ理解できません。世界的に見て超一流の技術者が7年もの歳月をかけて特定した370便墜落位置。この成果がもっと世界に広まればと願います。

出典:

1) 世界の何だこれミステリースペシャル仰天映像、2022年3月9日、フジテレビ

2) ”The Search for MH370“, Serving the MH370 Global Community