中華包丁でヘアカットする驚異の美容師|包丁のことを考えてみる

中国人が配信する動画の中には人の度肝を抜くようなものがいくつもありますが、下の動画もそのひとつでしょう。

中華包丁を巧みに使う中国人。しかし、切っているのは、女性の髪の毛です。一刀両断のもと切断した髪の毛を、今度は細切れにして、切断した毛先を整えています。

中華包丁は、肉、野菜や魚など、あらゆる食材をカットするのに大変便利な包丁で、固い骨を切断できるほどの強靭さを持ち合わせているという特徴がある万能包丁です。

その中華包丁をヘアカットに使っているのが上の斬新な動画です。

さすがは中国が誇る万能包丁、と思ってしまいますが、どうもパフォーマンスのようにも感じます。

日本人から見ると、中華包丁を『万能包丁』と称する姿勢には違和感を覚えます。

「万能だけれど、何一つ日本の専用包丁にはかないません」と。

日本の包丁にはたくさんの種類があります。出刃、柳刃、三徳包丁などなど。こんなにたくさんの種類がある日本の包丁などいらない! 中華包丁ひとつあれば何でも作れるから、日本包丁はすべて捨てました、という話は聞いたことがありません。

中華包丁は万能だからヘアカットにも使える、と動画を観て思った日本人はいないでしょう。

これは、中華料理と日本料理の繊細さの違いを示しているように感じました。

なぜ、日本では、刺身を切るときに柳刃包丁をわざわざ使うのか。刺身を切るとき以外使うことがない柳刃包丁をなぜ使うのか。

何でもかんでも油で炒める中華料理と素材の持ち味を大切にする日本料理とでは料理に対する基本的な考え方が違う気がします。

包丁の使い方もまったく違います。中華包丁は、その重さを利用した裁断型ですが、日本の包丁は、用途、あるいは食材により、使い方が変化しますが、基本的には「引き切り」です。

中国に限らず外国の包丁は、ただ一種類の鋼材だけで造るのに対し、日本の包丁は、硬軟二種類以上の鋼鉄を合わせて造っています。

当然、包丁の研ぎ方にも違いがあります。

日本では砥石を使って包丁を研ぐのが当たり前ですが、当たり前すぎるので、外国の実情を知るとカルチャーチョックを受けます。

外国では、砥石を使わない。包丁ならばヤスリ棒で研ぐのが当たり前なのです。

コレはかなりショックを受けます。外国にはそもそも砥石がありません。砥石は、日本の包丁のハガネ(鋼)を研ぐ道具だからです。単一素材でつくられた外国の包丁には砥石はいらないのです。ヤスリを使って刃先をガシガシ削り、荒くすれば切れるようになります。

その切れ味は、日本の包丁に引けを取りません。ここが大事なポイント。

管理人が海外赴任したすべての国で砥石は使われていません。使われているのは、金属用のヤスリ棒です。

単一素材でつくられている外国の包丁にはこれで十分なのですが、ハガネと鉄の素材でつくられている日本の包丁にはヤスリは怖くて使えません。

日本の包丁は、武器である刀から独自に発達してきたものです。平和な時代になり、刀の需要が減った時代に、刀作りの技術を包丁作りに移転して生まれた日本独自の刃物文化です。

なぜ、刀や包丁の刃先にはハガネが使われるのか。固く鋭く切れ味が良いものの折れたり欠けたりしやすいハガネと、これより柔らかく強靱な粘りを発揮する鉄との複合部材でつくることで、両者の利点を引き出す。これにより、折れたり欠けたりしにくく、切れ味も持続する日本の包丁が誕生しました。

では、日本の包丁が優れているのかというとそうとばかりは言えない。

実際の所、切れ味の良いのは外国の包丁。その理由は、刃先を拡大すると分かります。外国の包丁は、刃先をギザギザにすることで食材を切っていきます。この最たる例が手術に使うメスです。切れ味抜群の手術用メス(Scalpels)の刃先は波のようにギザギザに加工されています。もちろんミクロの世界ですが。

では、手術用メスは研げるのか?

どうやら使い捨てのようです。ただし、カッターナイフの刃先のように、刃先だけ取り替えるというタイプが主流のようです。手術用メスの刃先の特殊なギザギザで切れ味を確保しているので、研いで再利用することはできないようです。

中華包丁をヘアカットに使うメリットってあるのだろうか。

美容師さんが、「昔、中華料理人でした」というのであれば、メリットはないとは言えませんが、通常は、メリットを感じないと思います。

なぜ、こんなことにこだわるのかというと、「道具の用途」に大きく関わっている事柄だからです。

中華包丁で髪がカットできるのなら、日本刀でもできそうです。「鬼滅の美容院」として話題を集めそうです。