はじめに
この記事を閲覧されている方はペルーに行ったことがおありでしょうか。管理人は、2回行ったことがあります。最初はリマ、2回目はマチュピチュ・クスコです。残念ながらナスカには行ったことがありません。
今日は、そのナスカのお話です。
2022年4月13日、TBSの番組「ワールド極限ミステリー」で、「ペルー3本指ミイラは宇宙人か?人類史揺るがす新発見! 」が放映されました。番組ホームページには、「3本指ミイラ第2弾!腹部の卵を解析…今夜解き明かされるミイラの正体…新たに発見された縄で縛られたミイラの発掘現場に潜入」と書かれています。
ペルー・ナスカで発見されたこの3本指ミイラについては、昨年、2021年12月に放送されたものも見たので期待していたのですが、今回の第2弾も期待を裏切らずおもしろい番組に仕上がっていました。
この手の番組は、ほとんどヤラセではないかと思うほどいい加減な作り方なのですが、3本指ミイラに関してはしっかり取材しているような印象を受けました。
しかし、番組の内容は尻切れトンボ、という感じで、実態がつかめません。現地ではどのようになっているのだろう?
ちょっと興味を持ったので調べてみることにしました。
調べるに当たり、まず、日本語のサイトは最初から除外します。調べてもまとめサイトのような役にも立たない情報しかないからです。ネットで簡単に見つかる情報を集めただけのサイトばかり。そのため、情報の出所も不明です。イギリスのタブロイド紙「The Sun」のようなデタラメ情報を発信するメディアを引用するような情報は、みんなの迷惑です。
イカサマメディアの特徴は、出典を挙げないこと。仮に出典が書かれていたとしても、その出典にたどり着けないという特徴があります。その出典がデタラメだからです。雑誌ムーの記事はこの典型的なものです。出典がデタラメ!
おちゃらけ番組におちゃらけネットまとめ記事など不快なだけです。本記事ではまともバージョンで書きたいと思います。
なお、「カラパイア」が「ペルー・ナスカで発見された3本指のミイラ、DNA解析の結果、ヒトの新種である可能性が浮上」(2021年12月09日 [初稿は2018年6月29日])という記事を配信していますが、これは「The Sun」が出典になっています。これって、ちょっと恥ずかしくて管理人は絶対に書かない内容です。
TBS番組「ワールド極限ミステリー」で報じられたミイラについての概要
番組の内容をざっとまとめると以下のようになると思います。
- 2015年3月、ペルーのナスカで見つかった3本指のミイラは、『マリア』と名付けられます。
- そして、マリアのそばで5体の小さなミイラも発見。
- 現在、イカ市にある国立サン・ルイス・ゴンサガ大学でマリアを保管、研究が行われている。担当はロジャー・スニガ教授。
- 海外の専門家チームがこのミイラを詳細に調査した結果、次のようなことが分かりました。
- ミイラの表面は真っ白で、この物質は、後に化石化した海藻であることが判明。
- マリアの身長は168cmと比較的大きい。
- 長い手足を持ち、人間のように二足歩行していた。
- 目・鼻・口があるが耳の部分には穴があるだけで耳を確認できない。
- ミイラから採取した組織片を用いた放射性炭素年代測定の結果、ミイラ化したのは今から1600年前と推定される。
- レントゲン撮影、CTスキャンの結果、マリアは人間の骨格と似ているものの、違う点も見られる。大きな違いは、① 指が三本しかないこと、② 指の関節が5つあること(人間は3つ)、③ 足の甲がなく、踵から指が直接つながっており、さらに、足の指の先がかぎ爪のように90度に曲がっていること。
- なお、前回の放送でTBS取材班が行方不明になっていた小さなミイラを見つけ出し、マリアと小さなミイラのCTスキャンをするという内容が放映されました(つまり、このCTスキャンはTBSの資金が使われたということです)。
- レントゲン撮影、CTスキャンの結果からは、ミイラを人工的に加工した痕跡は一切確認されない。
- マリアのDNAを検査した結果、33%しか人間のDNA配列と一致しなかった。人間であれば他人であっても99.9%一致する。人間に近いチンパンジーでも98.8%が一致する。これほど人間とかけ離れたDNAを持つマリアが、人間に似た形をしていることがあり得ないのです(ロジャー・スニガ教授の話)。
- 前回のCTスキャンで確認された「小さなミイラ」の腹部に映し出された卵のような物体の組織片を採取し、ペルー・リマにある国立工科大学(UNI)で分析を実施。その結果、殻の部分の組織片からは卵のような成分が検出され、卵の中身の部分からは有機物の成分リンを検出。この分析から、この物質は卵と考えられるという結果を得る。
上の説明でどこの資金かを書いていますが、実はこれがこの謎のキーポイントかも知れません。
外国チームの資金を出したのは “Gaia” という様々なコンテンツをネット配信して巨額な収益を上げているアメリカの会社です。問題となるのがそのコンテンツの中身です。ヨガやスピリチュアルなもの、疑似科学など特定の分野に偏った作品を多く配信しています。
TBSの番組は正しく報じているのか
管理人がこの件を調べてみようと思ったきっかけは、ペルーの国立大学での科学的分析結果から、この三本指ミイラが偽物ではなく本物なのではないかと考えられることでした。
TBSの番組を見る限り、そう思えます。でも、それって本当なの?
まずは、そこから調べます。管理人はスペイン語を読めるのでペルーの新聞報道やペルーを中心としたスペイン語のネット記事を調べることにします。つまり、現地の報道ぶりを知るということです。日本語のわずかな情報をこねくり回して記事を作っているサイトとは違います。
管理人が疑問に感じたこととは?
TBSの番組を見て、最初に疑問を感じたのは、ミイラを発見した男性マリオって誰かということです。
前回2021年12月の放送では、マリオがミイラを発見した洞窟に取材班を連れて行くシーンがあります。この洞窟は発見当時入り口は石で覆われ、洞窟の中は白い砂でいっぱいだったそうで、それを二年かけて掘り出し、ミイラを発見したと・・。洞窟は山の山頂近くにあり、そこまで登るのに3時間かかるそうです。
番組では、2015年3月にミイラが見つかったと報じています。ということは、マリオ氏は2013年に洞窟を見つけ、登るのに3時間もかかる山の山頂付近にある洞窟の白い土を2年もの歳月をかけて取り除き、ミイラの発見に至った、ということになります。
普通の人はこんなことはしません。なぜ、マリオは、普通の人は決してやらないことをしたのでしょうか。番組では触れていませんが、マリオ氏は盗掘者であると考えるのが妥当という気がします。
さらに、(スペイン語の)ネット上でミイラの発見者であるマリオ氏についての記述をほとんど見つけることができません。通常であれば、ミイラの発見者として有名になるはずなのに、彼に関する記述が見つからないのです。もしかしたら、マリオは仮名なのかも知れませんが、それにしても発見者や発見場所についての情報が一切見つかりません。
実は、ペルーの新聞を調べれば簡単に状況が分かると思ったのですが、その考えが甘かったことに気づきました。情報がないのです! 何これ?! の世界です。
ネット検索(スペイン語)でヒットするのはおちゃらけ記事ばかり。まともなものは一つも見つけることができません。
見かけたネット記事の内容(スペイン語)はというと、何の根拠も示さずに、ミイラはフェイクだとする論調がほとんど。CTスキャンの結果も年代分析の結果も一切無視し、フェイクだと主張する論調ばかりが目に付きます。
新聞記事も同様で、何の根拠も示さずに多くの修飾語を使ったやたらと長い文章を書きながら、ほとんど中身のない記事ばかり。本当に中身がない思い込み記事ばかりです。
これは困ったことになった。
まずは、コツコツと調べていくしか方法がありません。ということで、この記事は長丁場になります。
ミイラが保管されている “サンルイス・ゴンサガ大学” とは
番組で紹介されていたミイラが保管・研究されている大学「サンルイス・ゴンサガ大学」とは何かを調べます。
ペルー南部のイカ市にある国立大学が「国立サンルイス・ゴンサガ大学(UNIVERSIDAD NACIONAL SAN LUIS GONZAGA DE ICA(UNICA))」です。イカからナスカまでは、直線距離で120Km程の距離です。
番組に登場するミイラの研究者がロジャー・スニガ教授(Roger Zuñiga Aviles)です。番組では人類学の権威者のように紹介していますが、実際には違うようです。彼が所属するのは「コミュニケーション科学・観光・考古学学部(Facultad de Ciencias de la Comunicación, Turismo y Arqueología)」。彼の研究内容を見ると、どうも観光の方に力を入れているようで、少なくともミイラに関する研究実績は確認できません。
ということで、ミイラがロジャー・スニガ教授のもとにある限り、ミイラの研究は何も進まないだろうと想像できます。
マリオとは誰だ?
番組の中で登場するミイラの発見者「マリオ(Mario)」とは誰なのか気になります。
そこで調べてみると、ナスカ地域で有名な墓泥棒グループの首領格の人物が「マリオ」と呼ばれているようです。13)
マリオの本名は、Leandro Benedicto Rivera Sarmiento。 9)
マリオが拠点とするのがイカとナスカのちょうど中間に位置する「パルパ(Ciudad de Palpa)」という町。ここには「ウアケロス(huaqueros)」と呼ばれる墓荒らしグループがいて、周辺の遺跡から考古学の宝を探すことを生業にしている。この略奪集団のリーダーをマリオと呼んでいるようです。
彼のグループは20年以上にわたってペルーの海岸で遺跡を略奪してきました。13)
具体的な彼らの悪行は、出典9) に書かれています。
TBS取材チームは、当然、それを知って彼に近づいたのでしょう。そして、マリオが政府から不当な訴訟被害を受けていると日本の視聴者に誤解を与える報道をした。これは放送倫理に触れる恐れがあります。盗掘という犯罪行為を、TBSは政府による不当な訴訟と説明しています。
マリオについての情報がペルーのネットサイトでほとんど皆無な理由は、ペルーではマリオたちが犯罪者として認識されているからでしょう。それなのに、TBSだけが彼に取材できていることに違和感を覚えます。
ペルーのプレスの論調
ペルー国内におけるこのミイラに対する論調は、プレスの報道ぶりからうかがい知ることができます。
2021年10月27日付けの地元紙 “El Comercio”は、「El fraude de las “momias alienígenas de Nasca” vuelve a tomar fuerza en Perú (ペルーで再び勢いを増す「ナスカ星人のミイラ」詐欺事件)」という記事を配信しています。三本指のミイラはフェイクだとする論陣を張っているのです。
ペルーのプレスがこのような論調になった原因は、いくつかの有名なUFOのデマに関与したことで悪名高いメキシコの元ジャーナリスト、ハイメ・マウサン(Jaime Maussan:メキシコ人なのでジェイミーではなくスペイン語読みの”ハイメ”と表記)がミイラの調査の初期段階から関わっていたことでした。プレスの彼に対する評価は辛辣で、詐欺師と考えているようです。
そもそも、三本指のミイラが世界的に有名になったのは、2017年6月に、ハイメ・マウサンを含む5カ国の科学者チームが素晴らしい発見をしたとナスカの町でメディアに発表したことでした。1)
ここで、怪しいと気づかなければなりません。5カ国の科学者チームって、具体的にはどこの誰? そのような情報はどこにもありません。”科学者” ではない人たちが科学者のふりをして調査した!
ペルーの人たちはこのことを怒っています。
ミイラの調査の結果、放射性炭素年代測定で古いミイラだと確認されるとペルーの考古学者たちは、「ナスカで不正に発掘されたミイラを加工して作った偽物であり、考古学的遺産を破壊した」と関与した関係者を非難するようになります。
2017年6月以降のことです。
ペルー文化庁は、この得体の知れない外国人たちに「この調査とは完全に距離を置くと宣言し、公式な支持を得られないと警告」しています。
ペルーの考古学者が怒っている理由は、発見された三本指のミイラが、エイリアンだと主張するメキシコ人ジャーナリストらにより、発掘された貴重なミイラが疑似科学の世界に追いやられてしまうからです。多額の資金を使って科学的分析を行い、その結果を疑似科学に流用する姿勢が許せないのです。
この自称専門家の外国人たちはどこの資金を使ってペルーまで来て調査しているのでしょうか。この問題を抜きに三本指のミイラを語ることはできません。
この答えは、上ですでに述べています。”Gaia” というアメリカのストリーミング動画配信企業です。この調査団の結果をすぐにシリーズものの動画で配信し、地球外生命体を発見したと煽り立てています。
Source: YouTube by #Gaia: Special Report: Unearthing Nazca, 4,121.364回再生 2017/06/20投稿
唐突に登場するロシアの教授は大学名簿に載っていない
三本指ミイラが世界的にセンセーショナルに報じられたきっかけは、ロシアのサンクトペテルブルク国立研究大学のコンスタンティン・コロトコフ教授(Konstantín Korotkov)がミイラの鑑定を行っていることで調査の信頼性を主張していること。
ここでおかしなことに気づきます。南米のミイラの研究になぜロシア人が出てくるのか。そもそも、そんな大学はロシアには存在しないらしい。
ネットで調べたところ、彼はロシアのサンクトペテルブルクにある国立光学IT機械大学(ITMO)の教授を名乗っています。動画の肩書きとは違います。しかし、どうも怪しいようです。そもそも、この大学は光学機械系の専門大学で、考古学も医療も関係ありません。
コロトコフ氏はいくつかの書籍を出版していますが、それらは皆、オカルト系の内容です。ネット上で見つかるコロトコフ氏の経歴を見ても、大学教授になれるとは思えません。
ミイラを調査した専門家チームの責任者のような立場で参加しているコロトコフ氏ですが、彼が何の専門家なのかも分からないのに、まるで、ミイラの科学的分析に精通している専門家のふりをしているように思われます。
さらに、出典13) には、次のように書かれています。
「gaia.comが提携するロシアのサンクトペテルブルク大学には、コロトコフ氏の記録が残っていない。大学関係者からのコメント要請には応じなかった。
また、コロトコフ氏の所属先としてメディアで紹介されたサンクトペテルブルグの国立研究大学も存在しないようだ。
サンクトペテルブルクには国立研究大学の高等経済学部があるが、やはり同大学のホームページにはコロトコフの名前はなく、大学関係者もコメントを求めても応じなかった。コロトコフ氏の個人サイトでは、「人間の光」を検出できるとする「バイオウェル」という製品が販売されている。ロシアのサンクトペテルブルグ大学やサンクトペテルブルグの国立研究大学の教授であることは、彼のホームページには一切書かれていない。」
ネットで彼のことを調べまくった結果言えることは、超常現象研究家のメキシコ人ジャーナリストと同じムジナだということです。
なお、ロシア関係の情報を探すときは注意が必要です。怪しいロシアの情報の発信源になっているのが「スプートニク(SPUTNIK)」という2014年に設立されたロシアの通信社です。ロシアについての情報の出典がスプートニクだけという記事もよく見かけます。スプートニクは政府系メディアで、ウクライナ関連でEUが禁止令を出しています。
ペルーのメディアは、調査団が行ったミイラの計測方法についても批判する記事を掲載しています。メンバーの肩書き自体が怪しい、特定の思想に偏った(疑似科学)メンバーから構成された調査チーム、ということでしょう。そして、その資金提供者は Gaia というペルーの文化とは無縁のアメリカの営利目的の企業。
5名の外国人専門家とは
この5名外国人専門家とは誰なのか気になります。
5名の専門家については、
Momias de Nazca es el resultado de una investigación científica que cuenta con la palabra de distintos expertos, entre doctores, periodistas, biólogos y radiólogos, que fueron convocados desde México, Rusia y Estados Unidos para analizar sobre el caso de los restos hallados en el departamento de Nazca en Perú y que profundizará en nueva evidencia de la presencia de inteligencia exógena en nuestra Tierra.
「ナスカのミイラ」は、メキシコ、ロシア、アメリカから招集された医師、ジャーナリスト、生物学者、放射線学者などの様々な専門家の発言を含む科学的な調査の結果です。この調査では、ペルーのナスカ地方で発見された遺物について分析し、地球上の異世界知性の存在を示す新しい証拠を深掘りしていきます。
multipress, “La investigación de momias de 3 dedos encontradas en Perú llega a la pantalla de History”, 2020/5/31
まず、
1. メキシコ人で元ジャーナリストで詐欺師:ハイメ・マウサン(Jaime Maussan)
2. ロシア人で専門不詳の経歴詐称詐欺師:コンスタンティン・コロトコフ教授(Konstantín Korotkov) 米国に住んでいるのにロシアの大学教授と詐称しているらしい。Drの肩書きも怪しい。
3. メキシコ人海軍軍医(法医学): ホセ・デ・ヘスス・ザルセ・ベニテス(José de Jesús Zalce Benítez)
4. 不明
5. 不明
医師、生物学者、放射線学者とは誰のことなのでしょうね。調べても分かりません。実際、彼らの報告は、専門的なことは一切ありません。詐称詐欺のロシア人は、ロシアの大学で分析したと言っていますが、全て嘘でしょう。
ペルーのメディアのいい加減さが気にかかる
日本人の感覚からすれば、ペルーのメディアのいい加減さが気にかかります。
まず、ミイラが見つかったのは2017年と多くのペルーメディアが書いています。さらに、外国人調査団が見つけたように書いている記事もたまに見かけます。
しかし、TBSが放映したように、マリオがミイラを見つけたのは2015年3月のこと。2017年6月以降、Gaia の配信する動画によりこのミイラが有名になりました。ペルーのメディアがこのミイラに関する記事を書き始めるのはこれ以降のことです。
ネット情報をさかのぼって確認したところ、2017年6月以前にはナスカで見つかった三本指ミイラに関する情報はありません(別の三本指ミイラの記事はありますが、別物です)。
小さなミイラの名前は?
大きなミイラは「マリア(María)」という名前です。では小さなミイラの名前は?
小さなミイラは、ワウィタ(Wawita)、ルイサ(Luisa)、ホセフィーナ(Josefina)、アルベルト(Alberto)、ビクトリア(Victoria)の5体です。TBSの番組では小さな「数体のミイラ」と数を正確に示していませんが、全部で5体あることが分かりました。小さなミイラの身長は、約60 cmの “は虫類型”。ホセフィーナを除く全てのミイラが大学に保管されています。
TBSの番組の今後
TBSの番組「ワールド極限ミステリー」では、ハイメ・マウサン氏が超常現象研究家として登場します。このような番組作りをする限り、TBSはペルー政府の協力を得るのは難しくなるでしょう。在京ペルー大使館から本国に TBSの番組の報道姿勢が報告されていると思います。歴史的遺物を超常現象と結びつける思考は、真実の究明からもっとも離れたところにあるように感じます。
さらに、墓泥棒の親玉マリオを主役にしたような番組作りはペルー国内で批判を浴びそうです。ペルーの国民は決して受け入れることはできない報道です。
しかしながら、このように発見当時の状況を正確に報じているメディアは他に存在しないことから、それを報じたTBSの番組作りが悪いとは言い切れないと感じます。このミイラのことは、世界中の誰よりも日本人が正確に知っている。これは、TBSの功績でしょう。
カナダの大学でのDNA解析結果は100%人間であると結論づけている
そもそも論の話をすれば、2017年の国際イカサマチームがミイラの科学的分析を行い、DNAが人間とはかけ離れた遺伝子配列になっているとロシアでの分析結果を公表したのが問題の発端となりました。
ところが、カナダの大学(オンタリオ州レイクヘッド大学のPaleoDNA研究所:Paleo DNA laboratory at Lakehead University, Ontario, Canada)が分析した結果は、100%人間という結果になりました。3) (この出典は英国『EXPRESS』ですが、リンク先は同大学のHPにも掲載されているので、この情報は正しいと思われます。)
ペルーの考古学者が、怒っている根拠はここにあるようです。貴重な古代の遺物、人間のミイラを金銭目的で改変したと考えているようです。
ペルー政府の立場は、あくまでも学術的な手法で過去の遺物を調査すべきである、ということで一貫しています。そして、Gaia.com から資金提供を得てイカサマなどお手の物という悪評が伝えられるメキシコ人ジャーナリストが参加しているプロジェクトに対しては徹底した拒否姿勢を貫いています。
このような背景を知った上でTBSの番組「ワールド極限ミステリー」を見ると、また別の見方ができると思います。
まとめ
今回調べて分かったことは、三本指のミイラが本物か偽物か、というレベルの議論はペルーでは全く行われていないようです。考古学者・ペルー政府は、真贋の議論はせず、完全否定しています。取り付くしまもありません。
これに対し、ミイラは本物だと主張するグループは(営利を目的とするという)本性をむき出しにして、エイリアン説を吹聴して収益を上げています。
良識のある考古学者や研究者は、ミイラが発見されたとされる洞窟を調査結果、鉱山の採掘跡地と考えられ、ミイラが発見されるような場所とは考えられないこと、周囲に遺跡がないこと、など丁寧に説明して、このミイラは古い遺跡から盗掘されたものを加工した可能性が高いと主張しています。
そして、CTスキャンの結果についても、三本指になるように指を切り落とし加工と主張しています。
Gaia の調査チームのメンバーが超常現象研究家で構成され、ミイラの調査の専門家が一人もいないことを問題視し、その調査結果の全てを否定しています。
一方、ミイラを保管する大学やイカ市は、観光の目玉になると考えているようで、政府のミイラ引き渡し要求を拒み、調査の予算を付けるという流れになっています。
これが結論です。ペルー国内ではミイラの真贋論争すら起きていないのですから、ミイラが本物かどうかは誰にも分からないのです。
おわりに: 管理人の疑問
最初に、営利目的の Gaia の(自称)専門家チームがどんな報告をしても信憑性がありません。彼らの目的は、文化遺産・考古学の探求とはかけ離れた、ネット配信動画のアクセス数を稼ぐことに特化した活動をしています。報道倫理のかけらもない人たちです。彼らの公表する情報は一切信頼できません。従って無視したほうがよいでしょう。
信頼できるのは、TBSが行ったCTスキャンの結果です。
これによれば、上述したように指が三本しかないことだけでなく、指の関節の数や足の甲がなく踵から直接指が出ているなど、明らかに人類とは違う形態の生き物のように思います。これについては、ペルー人の博士も無視しています。さらに不思議なことに、このことは外国のネット情報には書かれていないと思います。管理人は見たことがありません。日本人だけが知っている謎です(www)。
以前、別の場所で見つかった三本指の手のミイラについては、DNA解析の結果、人間のものと鑑定されたことから、一種の奇形と考えられているようです。ナスカの三本指のミイラは奇形なのでしょうか。また、子供のミイラとされている生き物は、マリアとは明らかに骨格構造が異なります。腹部には卵を持っている。つまり、子供とされるミイラは実は成体で、全く別の生き物なのではないか。
それを知るためには、政府機関によるDNA解析が必要となるでしょう。しかし、ペルー政府にはお金がないからそれはできない。お金を持っている動画配信会社の調査は、超常現象に結びつけるのが目的なので最初から信頼できない。調査結果の改ざんなどお手の物。
ということで、フジテレビの出番です。『世界の何だコレ!?ミステリー』の特番として是非やってほしいものです。TBSはペルー政府機関に嫌われているようなので、フジテレビは”オカルトではなく、考古学的見地から真実を追究するのが番組の趣旨です” と言って相手を騙し、協力を得る。
あるいは、NHKならそんなことをしなくても日本の国営テレビですと言って真っ正面から交渉にあたれるかも。NHKの謎の解明取材はこれまで謎とされてきたことを徹底的に調べ、いい加減な仮説を完全否定するという圧倒的な破壊力を持っています。これまで謎とされてきたものが、取材により木っ端みじんに粉砕される。月刊ムーが最も恐れる存在です。でも、NHKにはお金がない(たくさんあるけど、遺伝子解析などこのタイプの取材では使えないのでしょうね)。
参考までに、今回の記事で閲覧に使ったペルーのプレスのリストをあげておきます。驚くことに、今回のミイラについてどの新聞社もほとんど記事にしていません。新聞社のアーカイブから関連する記事が見つからない! このタイプの調査は何度かやっているのですが、こんなことは初めてです。
El Comércio | 首都リマを拠点とする新聞社 |
La República | リマ 所在の新聞社 |
La Razón | リマにある新聞社 |
Diario Gestión | リマの新聞 |
La Primera | リマの新聞 |
Ojo | リマの新聞 |
24 Horas Libre | ニュースサイト。リマより発信。 |
Libero | スポーツ新聞 (サッカー記事等) |
Google News – Perú |
追記:ハイメ・マウサンがまたやらかした
メキシコでも嘘つきで有名なハイメ・マウサンがまたまた一悶着を起こしています。
2023年9月12日にメキシコで開催されたUFOに関する公聴会にマウサンが出席し、ペルーから持ち帰った2体のミイラを公開し、人間ではない生き物だと大学が証明した、という、いつもの手口で人を欺こうとしましたが、大学から、そんなことは言っていないと即座に反論されたようです。
この人、やはり、変です。虚言癖のある人とは、こういう人のことを言うのでしょう。本人は嘘を言っているつもりはなく、間違っているのは他人だ、という信念があるのでしょうね。
そもそも、この2体はペルーから持ち出すことはできないはずで、不正に持ち出したと思われます。
2023年9月12日、マウサンは、UFOに関する公聴会で、メキシコ合衆国議会において、2体の「非人間の存在」と主張されるものを公開しました。マウサンは、これらの存在が、ペルーのクスコ市近くのナスカにある珪藻鉱山で見つかったとし、それらが1,000年以上前のものであると述べました。さらに、マウサンは、メキシコ国立自治大学(UNAM)の科学者たちが、彼の言葉で言えば、これらの遺体は「地球上の進化の一部ではない」と結論づけ、そのDNAの約三分の一が「未知の起源」であると主張しました。ただし、UNAMの物理学研究者であるフィエロ・フィエロは、大学がそのような主張を支持しなかったことを述べ、マウサンの提供したデータは「意味をなさなかった」と指摘しました。さらに、UNAMは2017年9月に発表した声明を再度公表し、彼らが送られた試料の起源についての結論を出していないことを明確にし、その他のテストも行っていないことを強調しました。Wired誌は、マウサンが提示した「ミイラ」が「人間と動物の骨から作成された精巧ないたずらである」と報じた。
Wikipedia, “Jaime Maussan“
マウサンがメキシコSNSから総スカンを食っている状況は、上のWikipediaのリンクの「Hydrotene claims」を読めば分かります。
さらに、出典16) “Forbes”には、「メキシコにエイリアン?それはちょっと待って—発表者は嘘を暴かれた経歴がある(Aliens In Mexico? Not So Fast—Presenters Have History Of Being Debunked)」という記事タイトルで、マウサンの他にこの公聴会での発表者の一人José de Jesús Zalce Benítezは、例の”Gaia.com専門家チーム”のメンバーだったことが書かれていて、なかなか笑えます。
Gaia.comの商業戦略の一環としての話題造りなのでしょう。ニュースメディアは、ねつ造された肩書きで登場人物を権威づけるといういつもの報道姿勢ではなく、もう少し、真実を伝える工夫をした方がよいのではないでしょうか。
メキシコで公開されたミイラの最大の問題は、鎖骨が一本の骨でつながっていて、腕を動かせないことのようです。更に、オスミウムという金属プレートがミイラに埋め込まれていたと発表していますが、それて、非破壊で分析できるのでしょうか。そもそも2017年発見時に撮影されたレントゲン写真にはそんな金属は写っていません。この辻褄合わせのために、発見されたミイラは20体と数を増やす手段に出たようです。
あとで追記するかも知れません。とりあえずこのバージョンでアップします。未読の記事もたくさんあるので、今後、本記事の記載内容が大幅に変更になる可能性もあります。お楽しみに!?・・かな?
「やりすぎ都市伝説スペシャル」が目を覆いたくなる悲惨な番組だった
2024年1月5日(金)、テレ東放送の「ウソかホントかわからない やりすぎ都市伝説スペシャル2024新春」で、またまた三本指のミイラをやっていました。本記事を読んだ上で当該番組を見れば、情報がデタラメなことが分かると思います。
肩書きを重視する権威主義を前面に押し出し、ずさんな取材でデタラメな情報を発信する。そもそも、誰も相手にしないハイメが出るような番組は、最初からねつ造です。ハイメの手口は、肩書きをねつ造するというもの。彼らのグループの主張する全ての情報に信ぴょう性がありません。詐欺師をテレビに出演させるのはテレ東の倫理規定に触れるのではないでしょうか。
墓泥棒(レアンドロ・リベラ:TBSでは「マリオ」とだけ紹介されていました)に現地に案内させるシーンがありました。一帯から金が発見されるということで探した場所なのだそうです。洞窟の中にあった大量の珪藻土は周囲にはないらしい。テレ東の編集責任者の判断なのでしょう。とても滑稽です。案内者は金が採れる、いわゆる金鉱脈を探していたのではなく、墓泥棒として、金製品を探していたということです。テレ東の編集者は、ここを意図的にぼかし、犯罪者に案内させるという暴挙を犯します。
ペルーで発見された小型のミイラは5体だけです。そのうちの2体がなぜかメキシコにある。当然、ペルー政府は許可するはずもなく、違法に持ち出したものです。なぜ、テレ東はその点を追求しないのか。
5体のミイラには全て名前がつけられていて、上で書いたように「クララ」という名前はありません。ここでもメキシコの詐欺師は情報をねつ造しています。30体ミイラが見つかっているなどさらなる偽情報を流しています。それを誰が確認したのでしょうか。それは、どこにあるのでしょうか。
ペルーの墓泥棒やメキシコの詐欺師を日本のテレビで放映するのは止めて欲しい。一番滑稽なのは、 外国チームの資金を出したスポンサー “Gaia“ がまったく登場しないことです。それなのに、登場人物は、皆、Gaiaの子飼いの連中ばかり。テレ東は、なぜ、Gaiaに取材しないのか。謎の解明などする気は毛頭ないのです。
関暁夫氏のもったいぶった陰謀論には辟易します。もう少し勉強して謎の解明に近づく努力をしたら?
他局の番組づくりの方がはるかに優れていると感じます。テレ東って、謎の解明には不向きな会社のようですね。スタッフもそれなりの人材しかいないということなのでしょう。あまりにもお粗末な番組で、呆れてしまいました。TBSの方が100倍番組作りが優れています。 NHKはその100倍優れていますが。
今回のテレ東番組で最も問題なのは、ペルー政府に対する言われもなく侮辱する放送内容になっていることです。何を隠蔽しているというのでしょうか。これって、とてつもなく非礼な報道です。その根拠は? 詐欺師と墓泥棒の話から作り上げた悪意のある幻想です。詐欺師と墓泥棒の取材には熱心で、ペルーの学者や政府関係者には何のインタビューもなく、情報を隠蔽しているという一方的な主張。このテレビ局、狂っています。
お笑いだから、ペルー政府をバカにしたり、情報を隠蔽しているなどと報道しても許して!
しかし、それは、少し、考えが甘いのではないでしょうか。報道倫理? いゃー、お笑いだから! 当然、許されるでしょ。何をやっても、お笑いなのだから、許されるのが当たり前でしょ。報道倫理? お笑いは関係ねーし! ペルーの文化財保護? 関係ねーし! くやしかったら、訴えてみろよ!・・というスタンスのようです。
ペルー政府の皆さん、テレ東を入国禁止にしてください! 詐欺師と墓泥棒の主張を日本国内にばらまき、文化財保護のため努力しているペルー政府には一切の取材もせずに貶める報道をしていますよ!
参考・引用:
1) ’Internet explota por un vídeo de una supuesta momia extraterrestre encontrada en Perú‘、24.06.2017
2) ’Ciencia VS Pseudociencia‘. Luca, 30 ene. 2021
3) ’NAZCA TOMB: DNA results are in on the ‘mummified aliens’… and they are REAL beings‘, EXPRESS, Sep 26, 2017
4) 「ナスカで発見された「3本指の純白宇宙人ミイラ」、ついにDNA鑑定結果が公開される! 専門家絶句の“正体”とは!?」、TOCANA、2017.10.19
5) ’Hoax or not? 3-fingered ‘humanoid’ mummy reportedly found in Peru, sparks skepticism‘, FOX NEWS, June 23, 2017
6) ’Konstantin Korotkov y Bio-Well’, 同氏の経歴紹介
7) ’María: la extraña momia que parece humana, pero no lo es‘, Ciencia, 17.03.2018
8) ’Los secretos de María, la momia de Nazca‘, AGENCIA DAF, 2017/10/10
9) ”EL ÚLTIMO CLAVO EN EL ATAÚD DE LAS MOMIAS DE NASCA” このサイトが最も批判的な書き方になっています。大学・文化庁、その他現地の状況がよく分かります。
10) ’ZUÑIGA AVILES ROGER’, Ficha CTI Vitae、ロジャー・スニガ教授の経歴
11) ’Proof of aliens or another hoax? Conspiracy theorists claim they have found a three-fingered ‘mummified humanoid’ with an elongated skull in a South American cave’, MailOnline, 23 June 2017
12) ’El fraude de las “momias alienígenas de Nasca” vuelve a tomar fuerza en Perú‘, El Comercio, 27/10/2021
13) ’Estas momias ‘alienígenas’ parecen ser una mezcla de partes del cuerpo saqueadas’, LIVESCIENCE, 16.03.2018
14) ‘World Committee on Mummy Studies’, Face book, 8 July 2017 外国調査チームを徹底的に批判
15) ’Momia de Nasca, parte 2: Análisis de las manos y pies‘, Científicos.pe, 28.06.2017
Rodolfo Salas-Gismondi, Ph.D. によるCT診断結果。三本指は他の二本の指が切り落とされたものと推測している。管理人としては、そんなことができるのなら、おまえがやってみろよ、という感じです。と思ったら、詳細に解説している動画がありました。
16) ‘Aliens In Mexico? Not So Fast—Presenters Have History Of Being Debunked‘, Forbes
この記事の執筆者Antonio Pequeño IVは、元”The Sun”の記者だったようで、もっと煽るのかと思ったら、バランスのとれた記事になっています。