頭痛!気圧変動で発生する「天気痛」と予測アプリと地震発生予測の因果関係

天気痛って何?

 NHKの「サイエンスZERO」でやっていた「天気痛」について、2022年4月5日、NHKの「クローズアップ現代(「体調不良 天気のせいかも!? 最新研究で分かる対処法」)」でも同様のテーマで放映されたのでビックリ! 何これ? 「ガッテン!」や「サイエンスZERO」の焼き直し? でも違います。

 新年度に「クローズアップ現代」に抜擢された桑子真帆アナウンサーの安定感のあるキャスターぶりは”さすが”としか言いようがありません。ゴールデン帯の放送で、NHKという枠内でこれができるのは桑子アナだけかも。国谷裕子さんとの違いを感じます。

 「天気痛」とは、天気依存型の慢性痛のことを指すようです。

 最初に書きますが、管理人は頭痛になったことがほとんどないため、頭痛に苦しまれている方のことははっきり言って何も分かりません。今回の記事は、NHKの番組で分かった最新の頭痛研究についてまとめる内容なのですが、管理人の関心は別のところに・・・。管理人は「まとめサイト」のような記事を書くつもりは毛頭ありません。

いきなり「結論」

 この項は、2022年2月27日初回放送の「サイエンスZERO」の「“知られざる国民病”天気痛の正体に迫る!」に基づいて記載します。

 結論を先に書くと、頭痛は、気圧の変化が直接原因となって起きるのではなく、気圧の微細振動の振幅の変化(微気圧変動)と継続時間(頻回)を耳(内耳の前庭器官)が感知し起きるというものです。この原因究明に使われたサンプル数が群を抜いています。その数、16万人! このサンプル数は統計学的に十分すぎる数です。ちなみに、調査対象者は「天気で体調を崩すのべ16万人」となっています。体調が悪くなるタイミングを聞き取ったものです。その日時と気象・気圧データを解析した結果、気圧の変化という単純なものではなく、台風や気圧配置のなどの変化により発生する、これまで「ごみ、計測誤差」と考えられていた気圧の微細振動が頭痛に影響していることが解明されました。

 解明したのは愛知医科大学客員教授の佐藤純博士とウエザーニューズ社の研究グループの方々。あれ? 何で客員教授なのだろう? 調べてみると、元々は名古屋大学の教授でしたが退官され、現在、愛知医科大学の客員教授をされているようです。

 佐藤先生は、2005年に日本初の『気象病外来・天気痛外来』を愛知医科大学病院で開設。気象病・天気痛研究の第一人者です。なにしろ、1983年から痛みを研究してきた先生が、気象の変化にまつわる痛みを“天気痛”と名付けました。

 話を戻すと、人間の耳がこの特徴的な気圧変化を感知し脳に伝えることで頭痛が発生する、というメカニズムが判明しました。

 天気痛の原因として、気圧の変化があげられるのですが、気圧が低下すれば必ず天気痛を発症するという単純なものではないことが、この研究を難しいものにしました。

 頭痛研究の論文を調べたのですが、上であげた研究成果は破壊的なレベルの研究であることが分かりました。結局、頭痛研究者は原因の特定に関する研究を誰もやっていなかったのです。それだけ難しい分野の研究だということです。

もっと詳しく知りたい

 天気痛を持っていますか、という質問に対し、「はい」と答えたのは、女性で43%、男性で20%。持っている気がすると回答した人も含めると、女性の78%が天気の変化で体調に不調になると感じていることが分かりました。

 一口に天気痛といっても症状はいろいろあります。

 

佐藤純博士の研究により、これまで平衡感覚のみを感じていると考えられてきた内耳の前庭器官に気圧の変化を感じる能力があることが示唆されました。(科研費を用いた2015-2018研究成果)

また、天気痛患者においては、気圧変化によって左右の内耳から脳内血流に差が出現し、それが疼痛出現の引き金になっている可能性が示唆されました。

 

 天気痛に気圧の変化が関係していることは分かりました。しかし、気圧が大きく変化する、たとえば台風が日本に近づく遙か以前から体調を崩す天気痛患者がいることについて、単なる気圧の変動では説明ができません。それに、気圧は常に波打つように変化しており、通常の気圧の変化が天気痛の原因とは考えにくい。たとえば下のグラフは直近の気圧変化を表したものですが、気圧は常に変化しており、最大1032.0hPaから最小992.7hPaまで39.3hPaの気圧の変動が見られます。台風の場合、50hPaくらい下がるようです。これは、標高500mの山の頂上に登ったときの気圧変化に匹敵します。

2022年3月18日から4月3日までの気圧の変化

 佐藤先生は、天気痛に気圧が影響していると考え、最終的に気象の専門会社ウエザーニューズの協力を得ることになります。

 「ウエザーニューズ」は2021年10月24日放送のTBS「がっちりマンデー!!」で紹介されていたので、ご存じの方もいると思います。自社の気象観測機器をたくさん設置することで、よく当たる天気予報として契約する会社も多く、かなり儲かっているようです。

 ウエザーニューズの気象予報士 森田清輝氏と共同で解析を進めた結果、これまで、気圧の測定誤差やゴミとして顧みられなかった微少な気圧変動が天気痛発症に影響していることを見つけ出します。天気痛を引き起こす気圧の微細な変動は、通常の微気圧変動(0.1hPa)より大きな0.5hPa程度の振幅で、それが長く続くという特徴があることが分かりました。

 日本の遙か南方で発生した台風で見ると、日本では台風の影響による気圧変化がほとんど見られなかったのに、実際には気圧の微細な高低の波がまるで”さざ波”のように台風から日本に押し寄せていることが分かりました。

 これが、台風による気圧の低下が起きる二日も前に体調を崩す人がたくさんいる原因であると考えられました。

出典:ウエザーニューズ
出典:ウエザーニューズ 、Microbarometric pressure fluctuation

 気圧が小さな振幅で揺れる。振幅が小さくてもそれが頻回に繰り返し、速いスピードで変化することは、感覚の中では非常に重要な変化。この微細な振幅の異変を人間の耳が感知していたのです。小さな揺れでもそれが連続して起きると内耳の前庭器官が刺激され続ける。それを異常刺激と捉え、脳に伝えることで興奮が伝わり頭痛が起きる。それは、これまで世界中の研究者がたどり着けなかったジグソーパズルのような原因究明の最後のピースがはまった瞬間でした。 原因が分かったあとは、それへの対処法です。

 (当然、一口に頭痛と言っても、その原因はさまざま。そう言って、何の解決策も示さないのが過去の“専門家”です。何ら有益な情報も発信しない、一般論を述べるだけの人は“過去の専門家”です。)

対処法

 このような気圧変化による頭痛に対する対処法として、耳のマッサージがあります。その原理は、リンパ液の流れをよくすることで対処するというもの。この対処療法も、佐藤博士の長年の研究により判明したことです。

 さらに、天気痛には、気圧の変化以外の要因が影響する場合もあるようです。これは、自律神経の変調が影響していると考えられることから、対策としては、自律神経を正常な状態に保つことが大切。そのためには、規則正しい睡眠や食事などにより、体調を整えることが重要なのだそうです。

 マッサージの具体的な方法は、本記事最下部のリンクからNHKのwebサイトでご覧ください。理論については、佐藤博士の論文で確認ください。

頭痛予測に役立つスマホアプリ

 NHKの特徴として、特定企業の商品を紹介しないというものがあります。番組の中で、頭痛の発生を予測するアプリの存在を報じていましたが、それが具体的に何なのかは分からない。調べてみると以下の三つのアプリがAndroidではヒットしました。

・天気痛・気象病対策アプリ 頭痛-る
・気圧速報|頭痛&気象痛対策に! 6.85MB
・頭痛予測マップ:気圧の変動情報を元に

関心のある方は試してみてください。

この三つのアプリをスマホにインストールして使ってみたのですが、思っていたものと違う、と感じました。これらのアプリはすべて気圧の変化予測を表示しているだけです。気圧変化と頭痛が必ずしも直結しているわけではないことは頭痛持ちの方の常識。NHKで紹介していたのは、このような単純な気圧の変化ではありません。気圧が変化するときに現れる振幅の大きな微細気圧変動なのです。当然、そのような予報データなどありません。存在するのは過去の気圧データだけです。ということで、これらのアプリは使えないだろうと推測できます。

ただ、個人の体質により、どのように気圧が変動すると頭痛や体調不良が起きるのかを記録しておくにはよいアプリかも知れません。それが簡単にできるのが「頭痛-る」のようです。

天気痛予報

 NHKの番組に登場する研究者や技術者たちがとりまとめた研究成果をwebサービスにしたのが株式会社ウェザーニューズが提供する「天気痛予報」です。

 かなり大雑把な予報図ですが、気圧の微弱変動の要素も取り入れられて予報が立てられているそうです。地域別・県別に表示することも可能です。

出典:ウエザーニューズ 天気痛予報
出典:ウエザーニューズ 天気痛予報

 

管理人の関心は別のところにある ⇒  地震予測!

 頭痛持ちではない管理人は、今回の記事のテーマにはほとんど関心がありません。この記事の脱力した書き方がそれを如実に示しています(www)。

 では、なぜこの記事を書いたのか。実は、地震の発生予測に使えるのではないかと考えたからです。

 最近、震度4以上の地震が頻発しています。管理人の子供の頃にはあり得なかった現象です。皆、慣れっこになっていて、地震に対する感度が低下していると感じています。

 昔から野生生物が大地震の発生を予知しているのではないかと考えられてきました。”ナマズ”による地震予知は誰もが知っていることですが、それが本当かは誰も知らない。この”ナマズ”の研究は、大海の海中ではなく、研究室の水槽の中で行われます。海洋の地震波とは隔絶された環境で研究が行われています。ナマズが地震予知できるとされる根拠となったのが水槽(木桶)に入れたナマズの挙動だったのですから、この研究方法が間違っている訳ではありません。

 木桶に入れたナマズが感知できる地震予知情報とは何か? それは、気圧の微弱震幅・継続時間変化(による震動)ではないかと考えられます。これまでは、地震波や地電流の変化が着目されてきましたが、まさか気圧の変化が影響しているとは誰一人考えたこともないでしょう。それも、単なる気圧の変化や振幅の変化ではなく、微気圧変動の振幅の大きさと継続時間が関与している可能性があるという発想自体、想像の域を超えています。

 ナマズに限らず、犬、猫、ネズミのような陸上生物でも地震を予知できるのではないかと言われています。では、これらの動物は何に基づき地震予知をしているような行動をしているのでしょうか。

 音に対して人間より数倍、数十倍、数百倍敏感な動物が、(音に対して鈍感な)人間が天気痛を引き起こすような異常気圧変動を感じないはずがありません。この変化は内耳で感知するからです。聴覚に深く関与していると考えられます。気圧の変化を感知する身体機能は多くの動物に備わっているようです。人間がこの変動で天気痛になるのであれば、聴覚が人間よりも発達している野生生物がそれを感知していても不思議ではありません。

 気圧は常に変動しているため、誰も気にする人はいなかった。ところが、上述した天気痛研究で(音に鈍感な)人間でさえ気圧の微少変動・振幅の変化を検知し頭痛が発生するというメカニズムが判明しました。ということは、これまで、野生動物が地震を予知しているのではないかと考えられてきた本当のメカニズムは、この気圧の微少振幅の変化にあるのではないか。

 だとすれば、ナマズを研究しなくても大規模地震の発生を予測できるのではないか?

 そのために必要な観測機器を新たに設置する必要もありません。必要なのは、地震発生と気圧の微動の相関関係の監視という作業です。

 ここで問題となるのが、気圧の微細振動と地震発生に因果関係があるのかと言うことです。そのような研究はありません。因果関係の有無は誰も知りません。

 通常であればこんなことは考えないのですが、気圧の微細振動が”さざ波”のように伝わるという発見から、地震も気圧変化に何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えました。この仮説を確認するために必要なのは、地震発生前の微気圧変動の有無です。震源から気圧の微細振動が”さざ波”のように伝っているということが確認できれば、この仮説が証明されます。しかし、一般的に、それを観測するのは無理でしょう。

 上の”さざ波”のようなアニメーションを作成したのはウエザーニューズ社ですが、おかしなことに気づきます。海洋上には気圧の観測点がないのです。観測点がなければ、気圧の高低の図など作れるはずもありません。当然、”さざ波”のようなアニメーションも作れない。ウエザーニューズ社がどうやってこれを解析したのか不明です。

 ディープラーニングで学習した気圧変化の予測値をつかったのか、あるいは有限要素法のようなバネモデルを使ったのか。使った解析手法に興味津々です。たぶん、気象庁が出している『気象業務はいま』の解析手法が使われているのでしょう。スパコンがなければ解析は難しい。

 上述したように、ウエザーニューズ社は微気圧変動を考慮した天気痛予報を行っています。ということは、微気圧変動を予測していることになります。ぜひ、これと地震予知との関係性も調べてほしいものです。この比較検討は個人レベルではできません。膨大な観測網を持つウエザーニューズ社しかできないことです。

参考文献等:

NHK クローズアップ現代 「体の不調 天気のせいかも!? 最新研究で分かる対処法」、2022.4.5、NHK ホームページ

NHK サイエンスZERO 「“知られざる国民病”天気痛の正体に迫る!」、2022年2月27日放映、NHK ホームページ

NHK 首都圏ナビ 「気圧のせいで頭痛・肩こりも 梅雨の”天気痛”セルフケアで快適に」、2021.6.8、NHKホームページ

『ためしてガッテン』「天気痛スペシャル▽原因は「気圧」内耳の暴走にあった?▽治療には「酔い止め薬」が効果的など」、2015年1月21日(水)放送、NHK

“Population-based door-to-door survey of migraine in Japan: The Daisen Study”、Headache The Journal of Head and Face Pain 44(1):8-19、2004

気象関連痛(天気痛)の疫学,臨床的特徴と発症予測情報サービス“、佐藤 純, 上山 亮佑, 森田 清輝, 古谷 敏之, 大塚 靖子, 畠山 清佳, 戸田 真弓, 戸田 南帆、 PAIN RESEARCH 36 巻 2 号 p. 75-80、2021 (pdfをDL可能)

 ”気象病発症メカニズムにおける気圧感受機構の解明ー動物実験と臨床実験の連携研究ー“、佐藤純、科学研究費助成事業 研究成果報告書(研究期間:2015~2018)、令和元年6月

気象業務はいま 第1部 数値予報の基礎知識 第4章 数値予報モデル』、国土交通省気象庁、2021